日本大学教授 百地 章

講演会にて配布された日本大学教授百地章先生の人権侵害救済法案に関する説明資料を書き起こしたものです。

元データ:危ない!人権侵害救済法案

法学者の視点から見た人権侵害救済法案の問題点が分かりやすくまとまっていますので、ぜひ参考にしてください。

  • 1.姑息な「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」
  • 民主党政権は、本年8月、法務省政務三役の名で「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」を発表
      「新たな人権侵害救済機関の設置について(基本方針)」
      (平成23年8月、法務省政務三役)(抄)(下線、引用者)
    • 1.法案の名称
    • 法案の名称については、人権擁護に関する施策を総合的に推進するとともに、人権侵害による被害に対する救済・予防等のために人権救済機関を設置すること、その救済手続き等を定めることなど、法案の内容を端的に示す名称とするものとする。
    • 2.人権救済機関(人権委員会)の設置
    • 人権救済機関については、政府からの独立性を有し、パリ原則に適合する組織とするため、国家行政組織法第3条第2項の規定に基づき、人権委員会を設置する。新制度の速やかな発足及び現行制度からの円滑な移行を図るため、人権委員会は、法務省に設置するものとし、その組織・救済措置に置ける権限の在り方等は、さらに検討するものとする。
    • 3.人権委員会
    • 人権委員会については、我が国における人権侵害に対する救済・予防、人権啓発のほか、国民の人権擁護に関する施策を総合的に推進し、政府に対して国内の人権状況に関する意見を提出することをその任務とするものとする。
      人権委員会の委員長及び委員については、中立公正で人権問題を扱うにふさわしい人格識見を備えたものを選任するとともに、これに当たっては、国民の多様な意見が反映されるよう、両議院の同意を得て行うもの(いわゆる国会同意人事)とする。
    • 7.特別調査
    • 人権侵害の調査は、任意の調査に一本化し、調査拒否に対する過料等の制裁に関する規定は置かないこととする。調査活動のより一層の実効性確保については、新制度導入後の運用状況を踏まえ、改めて検討するものとする。
    これを読んだだけで、何のことか理解できる人はどれだけいるだろうか →つまり、この「基本方針」は、これが危険極まりない法案を作り上げるためのスタートラインであることさえよく分からない仕組みになっている
    後述の「人権侵害救済法案」(平成17年、民主党案)を下敷きにして読み直したときに、初めて全容が見えてくる →真の狙いは、「人権侵害救済法案」の実現にあり!
    「小さく生んで大きく育てる」→「3条委員会」さえ設置してしまえば、後は何とでもなる(!?)
  • 2.「人権侵害救済法案」(平成17年、民主党案)の問題点
  • -旧「人権擁護法案」(自民党案)より危険な「平成17年民主党案」
    両法案の内容は、基本的に変わらず(条文も)
    ただし、民主党案の方が、さらに危険
    [例]
    民主党案では、「中央人権委員会」に加え、全国各県にも「地方人権委員会」が設置される
    民主党案では。「法務省の外局」(旧自民党案)ではなく、「内閣府の外局」とされている
    • (1)「人権侵害救済」の美名のもと、相手方の「人権を蹂躙」
      1. 「人権侵害」の定義 →極めて曖昧・不明確で、どのようにでも解釈できる
        1. 人権侵害=「不当な差別、虐待その他の人権を侵害する行為」(2条1項)
        2. 人権侵害等の禁止(3条)
        3. 不当な差別的言動=「特定の者に対し、その者の有する人種等〔人種、民族、信条、性別、年齢、社会的身分、門地、障害、色覚異常、疾病、遺伝子構造又は性的指向=第2条5項〕の属性を理由としてする侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」(同条1項2号イ)
        4. 現在でも、「人権侵害」の名のもとに、さまざまな行き過ぎや混乱が →もし人権擁護法が制定されたら、大変な事態に(言論の自由は否定され、自由で民主的な社会は崩壊)
      2. 人権委員会による「救済手続きの開始」(41条)
        1. 人権委員会は、以下の場合、「必要な調査」を開始
          1. 「人権侵害」ないし「人権侵害のおそれ」ありとの「申し出」があった場合、「遅滞なく必要な調査」をし「適当な措置」を講じなければならない(同条2項)
          2. 人権委員会は「人権侵害による被害の救済」又は「予防」を図るため必要があるときは「職権」で「必要な調査」をし、「適当な措置」を講ずることができる(同条3項)
      3. 人権委員会による「一般救済」(44条)
        1. 人権委員会は、「人権侵害による被害の救済」又は「予防」を図るため必要があると認めるときは、以下の措置を講ずることができる(同条1項)
          1. 「人権侵害を行い、若しくは行うおそれのある者」又は「これを助長し、若しくは誘発する行為をする者」及び「その関係者」に対しては「説示」、「人権尊重の理念に関する啓発」「その他の指導」(同項2号)
      4. 人権委員会による「特別救済」と「勧告」及び「公表」
        1. 人権委員会は、以下の「人権侵害」に対して「特別調査」を行うことができる(47条)
        2. 「不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの」(第45条2号イ)
        3. 人権委員会は、「不当な差別的言動であって、相手方を畏怖させ、困惑させ、又は著しく不快にさせるもの」たる人権侵害について必要な調査をするため、以下の「処分」をすることができる(47条1項)…「特別調査」
          1. 「事件の関係者に出頭を求め、質問をすること」(1号)
          2. 「人権侵害等に関係のある文章その他の物件の所持人に対し、その提出を求め、又は提出された文章その他の物件を留め置くこと」(2号)
          3. 「人権侵害が現に行われ、又は行われた疑いがあると認める場所に立ち入り、文章その他の物件を調査し、又は関係者に質問すること(3号)
        4. 人権委員会による「勧告」および「公表」(63条、64条)
          1. 人権委員会は、「人権侵害の救済」又は「予防」を図るため必要があるときは、当該行為をした者に対して「被害の救済又は予防」に必要な措置を執るべきことを「勧告」できる(第63条1項)
          2. 人権委員会は、「勧告」をしたにもかかわらず当該勧告を受けたものがこれに従わないときは、勧告の内容を「公表」できる(第64条1項)
    • (2)憲法からみた問題点 …明らかに憲法違反
      1. 「人権」および「人権侵害」の定義が曖昧・不明確なまま「表現の自由」を規制することは、国民の表現活動に「萎縮的効果」を及ぼし、憲法21条に違反する
      2. 「表現の自由」は自由で民主的な社会の基礎をなす最も重要な権利であり、一度これが失われてしまえば、民主主義は崩壊する。それ故、表現の自由を制限する際には「厳格審査の基準」(「明白現在の危険」「明確性の理論」など)によって厳しい審査を行い、これがクリアーできなければその法律は違憲とするのが通説である。(「札幌税関検査訴訟」昭和59・12・12最高裁大法廷判決)
      3. 行政機関である人権委員会が言論・表現の「事前規制」を行うのは、憲法21条違反である
      4. 表現の自由は、原則として「事前規制」は許されず、仮に事前規制をするにしても、行政権力ではなく、裁判所による「事前差し止め」を限度としなければならないというのが、最高裁の立場である(「北方ジャーナル事件」昭和61.6.11最高裁大法廷判決)
      5. 人権委員会が、裁判官の令状もなしに「立ち入り検査」をしたり、「書類等の留置き」をするのは、憲法35条違反である
      6. 憲法35条の令状主義は行政手続きにも適用されうる、とするのが最高裁の立場である。とすれば、表現の自由・思想の自由などを侵害する危険のある本件立ち入り検査等には、当然令状が必要である。(「川崎民商事件」昭和47.11.22最高裁大法廷判決)
      7. 人権委員や人権擁護委員について、国籍条項が存在しないのは、危険であり問題
      8. メディアに対する過剰規制は、「報道の自由」、「取材の自由」さらに国民の「知る権利」を侵害するものであり、憲法違反の疑いがある
      9. 「報道の自由」および「取材の自由」は憲法21条で保障・尊重されており、報道機関の報道の自由は、国民の「知る権利」に奉仕するものである(最高裁判決)。それ故、本法案で定めるような過剰な規制は、報道の自由、取材の自由さらには国民の知る権利を侵害するものであって、憲法違反の疑いが強い(「博多駅事件」昭和44.11.26最高裁大法廷判決)
      10. 「人権侵害救済」の名の下に「人権」や「名誉」を侵害された者を迅速に救済するための措置が定められていない
    • (3)「パリ原則」「国際規約人権委員会からの勧告」からみた問題点 …問題のすり替え
      1. パリ原則(1993年) →政府から独立した「人権促進・擁護のための国内機構」を
        1. 「できるだけ広範囲は任務を」 →ただし、権限の範囲は憲法又は法律で明確に規定すること
        2. 「政府、議会その他すべての機関」に対し →人権の促進、擁護に関する「意見、韓国、提案、及び報告を提出」
        3. 「政府から独立した国内機構を」→「財政的コントロールに服することのないように」
      2. 国際規約人権委員会からの日本国政府への最終見解(1998年)⇒人権侵害の調査と救済のための制度的仕組みを。とりわけ、警察や出入国管理当局による不適正な処遇について申し立てができる「独立した機関」の設置を
        1. つまり、「公務員による人権侵害を調査・救済し、不服申し立てに対処するためには、独立した機関の設置が必要」というのみ
        2. 「人権侵害を調査し、不服に対し救済を与えるための制度的仕組みを欠いていること」を懸念、「当局が権力を濫用せず、実務において個人の権利を尊重することを確保するために効果的な制度的仕組み」が要請される →「人権侵害の申し立てに対する調査のための独立した仕組み」を設立することを強く勧告
        3. とりわけ、「調査及び救済のため警察及び出入国管理当局による不適正な処遇に対する申し立てを行うことができる独立した当局が存在しないこと」を懸念→「独立した機関の設置」を勧告
      3. にもかかわらず、人権擁護法案では、「公務員による人権侵害」だけでなく、「私人間(民間)の人権侵害、さらに人権侵害のおそれ」まで監視する、法務省から独立した強力な人権委員会(3条委員会)を設置してしまった →これも、パリ原則、人権委員会最終見解を都合よく解釈、問題をすり替えたものと思われる
  • 3.「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」の問題点
    1. 法案の全体像を示さず、一部だけを取り出して無害を装い、法律の必要性を訴えるのは問題
      1. 「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」をいくら読んでも、「人権侵害救済機関」の全体像は浮かんでこない →にもかかわらず、これだけで「人権侵害救済機関の設置を認めよ」というのは余りにも乱暴
      2. 「基本方針」が平成17年の法案を前提したものであるとすれば、「人権侵害救済法案」の抱える重大な欠陥、とりわけ「人権侵害」の定義について何ら触れないまま議論が進められていることになり、大変危険
    2. なぜ「新たな人権救済機関の設置」が必要なのか、民主政権と法務省は、その「必要性」について国民にきちんと説明すべき。説明できないような重大な国家機関を、大震災のどさくさに紛れて作り上げてしまうつもりか
      1. 民主党の「人権侵害救済機関検討PT(プロジェクトチーム)」が今年の6月8日に発表した「中間取りまとめ(案)」には、「法案の必要性」の項目あり
      2. 「中間取りまとめ(案)」は、自民党政権時代の「人権擁護案」や民主党の「人権侵害救済法案」を引き合いに出して、「議論は積み重ねられている」としている。しかしながら、自民党政権時代には10年近くにわたって導入が検討されたにもかかわらず、結局、反対派を説得するだけの「必要性」を示すことはできなかった。
      3. 他方、民主党政権下では、「人権侵害救済機関」の必要性については、わずか数ヶ月間、PT(プロジェクトチーム)で議論しただけであった。しかも賛成派の意見を聞いただけで、反対派からのヒアリングは行われなかった。これでは、なぜ必要なのか、客観的で説得力のある説明などできるはずがない。
      4. このように、「なぜ必要なのか」という点について、説得力のある説明なし。結局のところ、「人権侵害救済機関の必要性」は「まだまだわが国では人権侵害の事例が後を絶たない」から(中間取りまとめ(案))、ということにつきる
    3. 明確な目的も権限も示されないまま、ともかく「3条委員会」を設置してしまおうというのであれば、憲法違反の疑いあり
      1. 「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」の核心部分は「3条委員会の設置」にあると思われる。しかしなぜ「3条委員会」が必要なのか一向に明らかでない
      2. 人事院、国家公安委員会、公正取引委員会、公安審査委員会などのことを「独立行政委員会」という。つまり「内閣の所轄の下にあるが、内閣から独立して職権を行使する行政機関」、言い換えれば「形式的には内閣の下にありながら、実際には内閣の指揮監督を受けず、内閣の責任もおよばない行政機関」のことであるが、この7つの独立行政委員会のことを「三条委員会」(国家行政組織法3条に基づいて設置される委員会)とも呼ぶ
      3. このような独立行政委員会は、占領下にGHQの指導の下でたくさん作られ、最盛時には20以上存した。しかし、内閣の指揮監督権が及ばず(それ故、責任も負えない)、したがって国会による民主的コントロールも及ばない独立行政機関を設置するのは、「行政権は、内閣に属する」と定めた憲法65条や「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ」と定めた憲法66条に違反しないかといった議論もあり、占領終結後は次第に廃止されてきた。
      4. 独立行政委員会について、通説は合憲説に立っているが、その理由について、有力説は「採決や審決などの準司法的作用」「規則の制定などの準立法的作用」あるいは「人事・警察・行政審判などのような政治的中立性が高度に要求される行政作用」などの、国会による政治的コントロールになじまない行政事務は、内閣から事実上独立した行政機関に行わせても憲法65条や66条に違反しない、と説明している。
         また、下級審の判例は、この種の行政機関は「あくまで例外的なもの」としたうえで合意としている。
      5. ということは、問題の「人権侵害救済機関」を「3条委員会」として設置するためには、まず、この行政機関が国会による政治的コントロールになじまない「準司法的作用」「準立法的作用」あるいは「政治的中立性が高度に要求される行政作用」などの行政事務を行うことが明確でなければならない。つまり、「3条委員会」はあくまで例外的なものだから、憲法65条や66条に違反しない目的や権限が与えられていることが明確な場合に限って認められるべき。
      6. にもかかわらず、法務省三役の名で発表された「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」では、この「人権救済機関」がどのような権限を行使するのか、具体的には何も示さず、ただ「政府からの独立性を担保するため」という理由だけで「3条委員会」として設置する旨、結論付けている。
         しかしながら、具体的な権限も示さず、したがってなぜ3条委員会にしなければならないかの理由を明確に示さないまま、この「人権救済機関」を「3条委員会」として位置づけてしまうのは問題であり、憲法違反の疑いさえある。
      7. それに、先の「基本方針」は「人権救済機関については、政府からの独立性を有し、パリ原則に適合するため」、人権委員会を「3条委員会」とする旨述べているが、「パリ原則」がいう「政府から独立した国内機構」というのは、単に「[政府の]財政的コントロールに服することのないように」といっているだけ(既述) →「パリ原則」を恣意的に引用
    4. 「強制調査権」を否定しておきながら、なぜ「人権侵害救済機関」を「3条委員会」にする必要があるのか
      1. 「基本方針」では、この「人権救済機関」をまず「3条委員会」にする旨結論づけておき、その後で「その組織・救済措置における権限の在り方等は、更に検討するものとする」と述べているが、本末転倒であって、大変危険である。
      2. 「基本方針」では、これまで憲法違反であると厳しく批判されてきた「令状なしの立ち入り調査や文書等の押収さらに呼び出し」等の「強制調査」は行わず、「任意調査に一本化」するとしているが、「強制調査」なくして推進派がいう「効果的な人権侵害の救済」などできるはずがないから、これは矛盾と思われる。
      3. このような本末転倒のやり方や矛盾した説明は、結局、強力な「3条委員会」の設置を認めさせてしまうための方便としか考えられない。まず「3条委員会」の設置を既成事実化し、その後で権限を付与していけば良いということであろうか。もしそうであれば、「3条委員会」の設置には断乎、反対していかなければならない。
      4. 民主党の「人権侵害救済機関検討PT(プロジェクトチーム)」では、しばしば「小さく生んで大きく育てる」といった議論がなされた。また、法務省は、前回反対派から指摘された点について大幅にハードルを下げてきたが、「一旦独立性の強い人権委員会を作ってしまえば、あとは徐々にハードルを上げればいいから、どうにでもなる」と考え、何としても独立した新たな役所を作ることに執念を燃やしているという。これはとんでもないやり方であり、国民を愚弄するにも程がある。
      5. それに、もし「3条委員会」を設置することになれば、事務局の職員を新たに任用したり、そのための人件費を手配したりする必要がある。これは行政改革に逆行し、民主党のいう「国家公務員総人件費の削除」とも矛盾する。今回の未曾有の大災害に対して復興財源の捻出が最大の課題となっているにもかかわらず、国の貴重な財源を使って、現行の人権擁護体制に屋上屋を重ねるような新たな機関を設置する必要性など、どこにあるのか。
  • 4.これまでの経過と現状、および今後の課題
    • (1)これまでの経過と現状
      1. 自民党政権時代、法務省は、当初は、法案成立に向けてかなり積極的だった →しかしながら、法律制定の必要性については説得力のある回答を示すことができず、憲法違反の点についても、まともな反論をなしえなかった。そのため、やや消極的になっていた(?)
        1. 反対派議員から「なぜ必要か?」「人権擁護法案を作らなければ救済できない人権侵害とは?」と質問されても、法務省はまともな回答ができなかった
        2. 法務省が挙げた「人権侵害」の例は、「私立学校における身体障害者の入学拒否」「学校でのいじめ」「外国人に対する賃貸住宅への入居拒否や店舗への入店拒否」「家庭内の児童虐待」「刑務所での虐待」等 →ほとんどが不適切な例であったり、人権擁護法でも救済は困難だったり、逆に人権侵害を惹き起こしかねない事例!
        3. さらに、法務省からは「作ってみないとわからない」との無責任な発言もあった
      2. 推進派の学者、参考人ら →推進派の論理は破綻しており、「なぜ必要なのか」、説得力のある説明ができないでいる
        1. 「法案作成に当たって、人権救済の相手側の人権に対する配慮は考えなかった」との反省の弁あり(塩野博教授)
        2. 公権力による人権侵害だけでなく、民間まで対象とした「特別調査権」の発動は問題である等といった批判(山崎公士教授)も
      3. 民主党は、平成17年に「人権侵害救済法案」を国会に提出済みだが、これをストレートに再現することについては躊躇あり →そこで出てきたのが、「3条委員会設置案」(?)
    • (2)「人権侵害」の実態からみて、法律は不要かつ危険
      1. 人権侵害の実態は?
        1. 「差別に泣いている人たちがいる」(野中広務氏ら)「まだまだ我が国では人権侵害の事例が後を絶たない」(民主党「中間取りまとめ(案)」)(?)→果たして、人権委員会のような強力な国家権力を行使しなければ救済できない「人権侵害」「差別」が現実に存在するのか?(前提問題)
        2. 法務省の統計 …すさまじい「人権侵害」? →現行制度のもとで、ほぼ解決
        3. 平成22年度の「人権侵犯事件」約2万2000件→「侵犯事実の不存在」を含め、その殆ど(合計で100.2%(?)になってしまう)は、「援助」「要請」「説示」「調整」等で解決、
          平成18年度の場合、「人権侵犯事件」は約2万1000件→「侵犯事実の不存在」を含め、その殆ど(99%)は、「援助」「要請」「説示」「調整」等で解決、特に重大・悪質な事案に関し、文書をもって是正を求める「勧告」4件、刑事訴訟法に基づく「告発」1件のみとあったが、平成22年度の場合には、この「勧告」や「告発」についての言及は見られない
          人権侵害救済法の制定によって救済しなければならない「差別」「人権侵害」はいずこに?
        4. 同和問題解決のため?
          1. 法案推進勢力の中心にあるのが部落開放同盟
          2. 狙いは、従来の「同和利権」の存続を図ること(!?)→「人権侵害救済法案」の第8条(所掌事務)の中には、「民間における人権擁護運動の支援に関すること」(第2号)とある
            もう1つの目的は、「糾弾」に法的根拠を与えること(!?)
          3. しかし、同和問題は法的に解決済み →「人権一般」を問題に
          4. 同和差別の実態は?
            地域改善対策協議会の意見具申 →平成8年、「同和対策の物的な基礎整備は概ね完了した
            もはや同和対策のための経済的優遇処置は不要に →逆に、「同和利権」が問題になっている(今や、「逆差別」の指摘さえある)
            「差別意識」解消のため?→すでに「人権教育・啓発推進法」が存在
      2. 法律の必要性は? …「人権侵害救済法」など有害無用
        1. すでに「人権擁護委員法」(昭和24年)、「ストーカー規正法」(平成12年)、「児童虐待防止法」(平成12年)、「配偶者暴力防止法(DV防止法)」(平成13年)、「高齢者虐待防止法」(平成17年)、「障害者虐待防止法」(平成23年)等、すでに多くの法律が存在
        2. どうしても必要とあらば、これらの法律を改正することによって対応すべき
    • (3)今後の課題
      1. まず、必要なことは、予想される「人権侵害救済法案」の国会提出を断乎阻止すること。そのためにも、現在の「新たな人権救済機関の設置について(基本方針)」を徹底的に批判していき、「3条委員会」の設置を断念させなければならない。それゆえ、特に民主党や連立与党の国民新党の国会議員に積極的に働きかけていくことが必要である。また、法務省やマスメディア、さらに一般国民に対して強力な反対運動や啓蒙運動を展開していかなければならない。
      2. その上で、場合によっては、人権侵害救済法に代わる必要最小限度の「個別法」(公務員による人権侵害の救済のための法律)の制定を
        1. パリ原則、国際規約人権委員会からの勧告=特に、警察、入国管理局などにおける人権侵害の調査・救済のため、独立した機関の設置を
        2. 今、必要なのは、「公務員による人権侵害」(刑務所、警察、入管等における人権侵害)の防止・人権救済のための法律では?
        3. 例えば、「公務員による虐待防止法」(仮称)など。しかし、その場合でも、現行法、例えば、刑法の「特別公務員暴行陵逆罪」や刑事収容施設法(旧監獄法)などとの整合性を図る必要があると思われる。