平成24年5月11日に、法務省公式ホームページに、人権救済機関の設置に関するQ&Aが発表されました。

    これは平成23年12月6日に発表された「新たな人権救済機関」の設置に関する報告の設置に関する報告の改訂版です。


    平成23年12月15日には、同省より

    「人権委員会の設置等に関する検討中の法案の概要」が発表されています。


    平成17年、民主党案の人権侵害救済法案は、人権侵害の定義が曖昧で拡大解釈の恐れの有るまま、極めて特定の傾向を持った人々に国民の言動を取り締まる強権を与えるというものでした。

    しかし、多くの批判があり、場当たり的な対応で改訂を繰り返した結果、5月11日に法務省公式サイトに掲載されたQ&Aは一層、論理的整合性に欠けるものとなっています。

    この法案は、あきらかに、巨大な新組織を作ることだけを目的とした法案であり、組織設立ありきという法務省と推進派の意図が見えます。財政逼迫の折から、このような不可解な組織を作る余裕は我が国にはなく、また、将来の権限強化の余地が意図的に残された、極めて危険な法案です。

    この法案の危険性をご理解いただき、同法案に反対をしていただきたく、以下に同法案に関する問題点をまとめましたので、ご一読いただきますようお願いいたします。



  • 目次
  • 法務省Q&Aの骨子


    問題点1  私人間の人権侵害への対処に3条委員会が必要となる根拠がありません。


    問題点2 委員任命における公正・中立性の担保が不十分です。


    問題点3 網羅的な根拠法が公権力による人権侵害の原因になります。


    問題点4 外国人が人権擁護委員に選任される可能性を排除していません。


    問題点5 メディアを個々人として監視の対象としたため、さらなる言論封殺に繋がりかねません。


    問題点6  一般人が民法・刑法の規定により人権侵害を判断するようになります。


    問題点7 司法でも捜査機関でもない、不可解な組織です。


    結論



    平成24年5月11日の法務省Q&Aの骨子は、幾度かの追加・修正を経て現在の形になっており、内容は以下に要約されます。


    1. あらたな人権機関を作るのは、公権力による人権侵害に対処する為。 従って政府からの独立性を有する3条委員会とする必要がある。


    2. 委員会には制裁をともなう調査権等は与えない。 3条委員会であるからただちに強権をもつものではない。


    3. 人権救済機関の設置は国連からの要請である。


    4. 人権擁護活動に、明確な根拠法を必要とする。


    5. 人権委員の選任は国会の同意人事であるから、公正さは担保される。


    6. 外国人は人権委員にはならない。

    また人権擁護委員(法務大臣に委嘱された民間人)に外国人がなれるかどうかは、地方参政権の問題である。


    7. マスコミを優遇はしない。

    個々人としては一般国民と同様調査措置の対象になる。


    8. 人権侵害の定義は現行の民放・刑法に準拠するので、定義の曖昧さは回避される。


    9. 新たな人権侵害救済機関は、啓蒙機関である。


    問題点1

    私人間の人権侵害への対処に3条委員会が必要となる根拠がありません。

    同法案は公権力による人権侵害に対処する為に3条委員会が必要だと強調していますが、私人間の事案に対処するのに、何故3条委員会が必要なのか、いかなる説明もありません。

    また、Q2-2において、ほとんどの事例が現行法で解決出来ているのに、何故新たな機関が必要かという設問を立てながら、公権力による人権侵害に対応する為と、論点をすり替えています。

    既述のように、当初は国民の言動を監視する為に成立をもくろんだ同法案でしたが、3条委員会という強権を付与しうる組織とすることの正当性を説明できなかったため、改変を経て、公権力への対処を強調しはじめました。そのため、私人間の問題に対処するために、なぜ3条委員会を必要とするのかという問いへの回答がありません。


    (以下関連、同Q&A Q2、Q2-2)


    Q2 なぜ,新たに人権救済機関を設ける必要があるのですか。

    我が国では,差別,虐待などの人権問題が起きており,公権力による人権侵害への対処も含めて実効的な救済をする必要があります(答申)。

    また,国際的にも,政府からの独立性を有する新たな人権救済機関の設置が要請されています。


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    人権擁護推進審議会の答申では,我が国において,児童や高齢者に対する虐待,女性に対する暴力,障害等を理由とする差別,学校や職場におけるいじめなど,数々の人権問題が起きていることを指摘した上,公権力による人権侵害への対処を含めてより実効的な救済をするためには,政府からの独立性を有する新たな人権救済機関の設置が必要であるとの提言をしています(最近の人権侵犯事件の状況については,人権擁護局ホームページの「資料集」を御覧ください。)。

    現在,法務省の人権擁護機関において人権救済に取り組んでいますが,その担当部局である人権擁護局は,法務省の内部部局として法務大臣の指揮監督下にあり,また,その活動は,法務省の内規に基づいて行われています。そこで,政府に対しても独立性を有する立場で活動のできる中立公正な機関を新たに法律で設置し,その機関が国内の人権状況を調査・検討したり,人権救済を行ったりなどすることが必要だと考えられているのです。

    国際的に見ても,各国に国内人権機構が置かれるようになり,平成5年には,国連においても,国内人権機構が拠るべき基準(これは,「パリ原則」と呼ばれています。)が総会において採択されました。

    我が国は,平成10年に,規約人権委員会から,政府からの独立性を有する国内人権機構の整備について勧告を受け,その後も,今日まで,各種人権条約の委員会等から,同様の勧告等をたびたび受け(※),例えば,平成20年の国連人権理事会の普遍的定期的レビューにおいてなされた勧告に対し,パリ原則に沿った国内人権機構の創設に向けた検討を引き続き行っていく旨の回答をするなどしています。

    なお,上記審議会の答申は,このような国際的な状況も踏まえたものです。

    このような答申やパリ原則の趣旨を踏まえると,現在の人権擁護活動について,①明確な根拠法を制定することとともに,②行政権力の担い手である所管大臣から指揮監督を受けない機関,すなわち,政府からの独立性を有する機関を新たに設置し,この機関に上記の活動を担わせるものとすることが必要です。

    このようなことから,「基本方針」第2項及び「法案の概要」第3項において,政府からの独立性を有する人権救済機関を設置することとしたものです。

    (※)各種人権条約の委員会等による言及(最近のもの)

    ・平成13年(2001年) 3月 人種差別撤廃委員会

    ・平成13年(2001年) 9月 社会権規約(A規約)委員会

    ・平成15年(2003年) 7月 女子差別撤廃委員会

    ・平成16年(2004年) 2月 児童の権利委員会

    ・平成19年(2007年) 8月 拷問禁止委員会

    ・平成20年(2008年) 5月 国連人権理事会(普遍的定期的レビュー)

    ・平成20年(2008年)10月 自由権規約(B規約)委員会

    ・平成21年(2009年) 8月 女子差別撤廃委員会

    ・平成22年(2010年) 3月 人種差別撤廃委員会

    ・平成22年(2010年) 6月 児童の権利委員会


    Q2-2 人権侵害事案は法務省の人権擁護機関もほとんど解決できており,新たな人権救済機関を設ける必要はないのではありませんか。

    国民から広く信頼され,公権力による人権侵害への対処も含めてより実効的な救済をするには,政府からの独立性を有し,中立公正さが制度的に担保された新たな人権救済機関が必要です(Q2参照)。


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    現在の法務省の人権擁護機関(法務省人権擁護局,法務局及び地方法務局,人権擁護委員)においても,人権侵犯事件の調査・救済を適正に行うよう努めています。しかし,人権擁護局は法務省の内部部局であり,その活動も法務省の内規に基づくものであるため,特に公権力による人権侵害への対処について,制度に対する信頼性の面からも,実効性の面からも,限界があると言われています。

    すなわち,現行制度上は,内規に基づく人権侵犯事件の調査・救済の手続について法務大臣の指揮監督を受ける仕組みとされているため,仮に,法務大臣の指揮監督下にある組織において人権侵害事案が発生した場合,被害者からすれば,同じ法務大臣の指揮監督を受ける法務省の人権擁護機関に期待することは難しいと言われ,また,救済措置の実現についても同じ大臣の一存にかかる仕組みとなることから,実効性に対する信頼にも影響があると指摘されています。

    国際的にも,我が国は,各種人権条約の委員会等から,政府からの独立性を有する国内人権機構を整備するようたびたび勧告を受けています(Q2参照)。

    そこで,国民から広く信頼され,より実効性のある人権救済制度を作るため,政府からの独立性を有し,中立公正さが制度的に担保された新たな人権救済機関を設けることが必要だと考えています(Q2参照)。

    問題点2

    委員任命における公正・中立性の担保が不十分です。

    人権委員の選任は国会の同意人事であることをもって、委員の公正中立を担保するとしていますが、これは全国民、全住民を広範に対象とする機関としては不十分な担保です。

    Q&Aでは、同じ3条委員会の公正取引委員会などをあげて、同様の問題であるとしていますが、公正取引委員会などは、同法案のような、全国民および全住民のささいな私人間の争いにいたるまで監視対象にした組織ではありません。

    最高裁判所裁判官に対しては国民審査制度があり、裁判官は行政から完全に独立した存在です。

    米国の陪審員制度や我が国の裁判員制度は、その公平さを保つため種々の工夫がこらされています。また、議員は常に選挙という形で国民の監視下にあります。

    上記のように、私人間の人権侵害を広範に扱う独立性の高い組織の委員を選任するにあたり、国民にリコールの権利もなく、国会の同意人事だけで公正さを担保するのは、問題です。

    現在のように、特定の政党が国会において圧倒的多数である場合、政権与党(および与党を支持する特定の団体)の意向によって、偏った委員が選任される可能性も否定出来ません。


    (以下関連、同Q&A Q4、Q6、Q6-2)


    Q4 三条委員会では、権限が強すぎるのではありませんか。

    委員会の権限は,法律がその委員会にどのような権限を与えるのかによって決まるものです。

    三条委員会であることから,直ちにその権限が強すぎるということにはなりません。

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    三条委員会では権限が強すぎるのではないかというご指摘もありますが,委員会の権限は,制定される法律がその委員会にどのような権限を与えるのかによって決まります。

    したがって,三条委員会であることから,直ちにその権限が強すぎるということにはなりません(ちなみに,「基本方針」第7項及び第8項では,設置する委員会には,制裁を伴う調査や,訴訟参加,差止請求訴訟の提起等の権限は与えないものとされました。)。

    三条委員会には職権行使の独立性が保障されますが,人権委員会の委員長及び委員は,中立公正で人権問題を扱うにふさわしい人格識見を備えた人が任命されることになりますし,また,「基本方針」第3項に示されているように,その任命には国会の同意が必要とされますので,国民の代表によるコントロールが確保されることになります。


    Q6 人権委員会の委員長や委員の任命要件が曖昧であり,その時々の政権によって恣意的な人選が行われるのではありませんか 。

    人権委員会の委員長や委員は,日本国籍を有する者であることが当然の前提であり,外国人が就任することはありません。


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    設置する人権委員会の委員長や委員は,中立公正で人権問題を扱うにふさわしい人格識見を備えた人の中から,国会の同意を得て(「基本方針」第3項),内閣総理大臣が任命することが予定されています。

    三条委員会の委員長や委員は,日本国籍を有する者であることが前提とされており,外国人が就任することはありません。

    それは,その職務の性質上,公権力の行使又は公の意思の形成への参画に携わる公務員に当たるからであり,そのような公務員については,日本国籍を有する者に限られることが当然と理解されているからです(これは,「当然の法理」と呼ばれています。)。

    他の法律により設置されている三条委員会においても,その委員が日本国籍を有する者に限る旨の規定は置かれていませんが,いずれも同様に当然のことと考えられています。

    なお,従来,国籍要件の議論がされていたのは,人権擁護委員の委嘱について(Q8参照)であり,人権委員会の委員長や委員についてではありません。


    Q6-2 人権委員会の委員長や委員に外国人が就任することはないのですか。

    人権委員会の委員長や委員の任命は,国会の同意を得た上で内閣総理大臣により行われます(Q6)。恣意的な人選が行われることはありません。

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    人権委員会の委員長や委員については,公正かつ中立で人権問題を扱うにふさわしい人格識見を備えた人を,両議院の同意を得て,内閣総理大臣が任命することを予定しており(いわゆる国会同意人事)(「基本方針」第3項及び「法案の概要」第3項),候補者が人権委員会の委員長や委員にふさわしいかどうかについて,両議院で慎重に審議がされることになります(Q6)ので,その時々の政権によって恣意的に人選が行われることはありません。

    なお,委員長及び委員の任命をいわゆる国会同意人事とすることは,国民の多様な意見を反映させるための方法として,他の三条委員会(公正取引委員会,公害等調整委員会,運輸安全委員会,公安審査委員会等)においても取り入れられています。

    問題点3

    網羅的な根拠法が公権力による人権侵害の原因になります。

    個別法で対応出来るのではないかという問題に対して、同Q&Aでは以下のように回答しています。


    「(略)これらは必ずしも総合的な人権救済の観点に立っているわけではなく、救済の要件や手法についても個別法ごとに異なる仕組みが規定されています。

    (略)個別の法律による救済制度が整備されていない分野(略)もあり、さらに、社会の変化に伴い様々な分野で新たな類型の人権侵害が生じてくると考えられますが、法律を制定していては迅速な対応が困難であることを考えれば、全ての問題について個別の法律で対応することは困難です。このように、個別の法律による対処には限界があります」


    現行法で99%人権侵害事案が解決している現状で、残り1%の事例について「個別法で対応するのが困難」と結論づけることは明らかに無理があります。

    救済の要件や手法について個別法ごとに仕組みが異なるのは、人権侵害の事案に応じた個別の対応や救済策が必要だからです。

    また、民主主義においては、観念的な「国民の総意」を具体化するための手続きが必要不可欠です。

    迂遠であるから個別の手続きを無視して網羅的な根拠法を作るという思想自体が、まさに公権力による人権侵害を生むと言っていいでしょう。


    (以下関連、同Q&A Q2-3)

    Q2-3 人権侵害には個別の法律で対処できるのであり,新たな人権救済機関を設置する必要はないのではありませんか。

    個別の法律による対処には限界があります。国民の利用しやすさという観点からも,現在の法務省の人権擁護機関と同じように,あらゆる人権問題を取り扱う人権救済機関が必要です。


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    法務省の人権擁護機関は,昭和23年に設置されて以来,あらゆる人権問題を広く取り扱っています。

    確かに,人権に関する問題について個別の法律による救済制度が設けられている分野(例えば,児童虐待,高齢者虐待等)もあります。

    しかし,これらは必ずしも総合的な人権救済の観点に立っているわけではなく,救済の要件や手法についても個別法ごとに異なる仕組みが規定されています。

    また,そもそも個別の法律による救済制度が整備されていない分野(例えば,学校における体罰やいじめ,名誉毀損,プライバシー侵害,障害者や外国人に対するサービス提供の拒否等)もあり,さらに,社会の変化に伴い様々な分野で新たな類型の人権侵害が生じてくると考えられますが,法律を制定していては迅速な対応が困難であることを考えれば,全ての問題について個別の法律で対応することは困難です。

    このように,個別の法律による対処には限界があります。

    ところで,法務省の人権擁護機関は,あらゆる人権問題を取り扱うとともに,現在でも,個別の救済機関が存在する場合には,これらの救済機関と連携して,被害者の意向を踏まえた最も実効的な救済の実現を図っています。

    そこで,新たな人権救済機関においても同様に,個別の救済機関が存在する場合には,これらの救済機関と連携して,被害者の意向を踏まえた最も実効的な救済の実現を図ることを予定しています。

    このように,これまでの経緯を踏まえ,国民の利用しやすさという観点からも,個別法による救済とともに,あらゆる人権問題を取り扱う新たな人権救済機関を設置することが必要だと考えています。


    問題点4

    外国人が人権擁護委員に選任される可能性を排除していません。

    外国人が人権擁護委員になれるかどうかは、外国人地方参政権など別法案の問題だとしていますが、この回答にも矛盾があります。

    人権擁護委員の選任については、現行の選任制度を移行するとしながら、もし外国人地方参政権が付与された場合、人権擁護委員に選任されるかどうかは、「地方参政権の有無と人権擁護委員の委嘱要件(推薦要件)とは当然に一致するものではありませんので,これらは別個の問題として,外国人に対して地方参政権を付与するかどうかの検討過程で改めて論議がされる」と答えています。

    当然に一致するものでないのであれば、今回の法案で、日本国籍を有する者と規定すれば済む話であり、外国人地方参政権の検討過程を待つ必要はありません。

    人権擁護委員法と根本的に制度設計が異なる本法案で、人権擁護委員法における「当該市町村の議会の議員の選挙権を有する住民」との条項を安易に引き継ぐことは非常に危険です。2009年に施行された裁判員制度では、裁判員を明確に日本国民と限定しており、本法案でも同様に国籍条項の明記をするか否かの議論を行うべきです。

    この法案を推進する議員及び団体がおしなべて外国人地方参政権推進派であることを考えれば、その目指す所は明瞭です。


    (以下関連、同Q&A Q8、Q9)

    Q8 外国人も人権擁護委員になることができるのですか。

    外国人が人権擁護委員になることはありません。


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    人権擁護委員については,人権擁護委員法が定めています。人権擁護委員は,法務大臣が委嘱する民間の有識者です。

    人権擁護委員法に定められた委嘱の手続は,市町村長が,市町村議会の意見を聴いて候補者を推薦し,弁護士会及び都道府県人権擁護委員連合会の意見を聴いた上で,法務大臣が委嘱するというものです。

    その市町村長による推薦の要件として,同法は,その候補者がその市町村議会の議員の選挙権を有する住民で,人格識見が高く,広く社会の実情に通じ,人権擁護について理解のある者であることなどを求めています(同法第6条第2項,第3項参照)。

    したがって,外国人は推薦の対象者にはされていません。

    「基本方針」第5項に「人権擁護委員の候補者の資格に関する規定・・・は,現行のまま,新制度に移行する。」とされているとおり,新たな人権救済機関の下においても,外国人に人権擁護委員が委嘱されることはありません。


    Q9 外国人に地方参政権が付与されることになれば、外国人が人権擁護委員を委嘱されることになるのですか。

    外国人に地方参政権を付与するか否かの検討過程で,改めて議論される問題です。


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    現行の人権擁護委員法では,Q8の「もっと知りたい方はこちら」欄のとおり,市町村長は,その市町村議会の選挙権(いわゆる地方参政権)を有する住民の中から人権擁護委員を推薦することとされています。

    しかし,地方参政権の有無と人権擁護委員の委嘱要件(推薦要件)とは当然に一致するものではありませんので,これらは別個の問題として,外国人に対して地方参政権を付与するかどうかの検討過程で改めて論議がされるものです。


    問題点5

    メディアが個々人として監視の対象としたため、さらなる言論封殺に繋がりかねません。

    メディア規制を見送ったのは、過去にメディアの猛反発を受けて廃案になった「人権擁護法」の轍を踏まない為です。

    しかし、法の元の平等に反するとの批判の声に窮して、「一般の国民や企業と同じ取扱いになる」との見解を付け足しました。

    しかし、メディアの報道を個々人による人権侵害として監視の対象とするのは、メディアそのものの規制以上に、民主的言論の封殺に繋がりかねない危険な思想です。


    (以下関連、同Q&A Q10)


    Q10 「基本方針」では、かつての法案にあったマスコミ条項の導入が見送られていますが、マスコミを不当に優遇しているのではありませんか。

    「基本方針」第6項では,報道機関に関する特別の規定(いわゆるマスコミ条項)を置かないこととしました。

    マスコミについては,社会的影響力が強いため,これに対して人権委員会が強い権限を持つべきだという意見もありますが,これまで,報道機関等による様々な自主的取組がされてきたことや報道の自由の重要性等が考慮されたものです。

    しかし,特別の規定を置かないことにより,一般の国民や企業と同じ取扱いになるだけで,マスコミを優遇しようとするものではありません。


    問題点6

    一般人が民法・刑法の規定により人権侵害を判断するようになります。

    人権侵害の定義が曖昧だとの指摘に対し、同法案は、「民放 刑法その他の法令に照らして違法とされる行為」を人権侵害と規定し直しました。

    しかし、この回答通りであれば、行政の立場にある者が、違法か否か判断をする事になります。

    また、有識者と称する、いかなる公的制約も受けない一般人が、民法や刑法に触れるか否か判断する事になります。

    裁判官、警察官いずれも、司法、行政の立場から種々の制約があり、一般人とその立場は同等ではなく、一般人以上の義務を負っています。

    問題点2でも指摘したように、裁判員制度などでは、特定の義務(守秘義務)の他に、その公平さを担保する為に種々の工夫をこらしています。

    その重大な立場にも関わらず、人権委員はいかなる義務も制約も規定されておらず、その公正さの担保も不十分であり、行政にありながら、刑法に触れるかどうかの判断をするという構図になっています。

    これは、非常に危険な制度設計です。


    (以下関連、同Q&A Q11、Q11-2)


    Q11 新たな人権救済機関が取り扱う「人権侵害」の定義は曖昧ではありませんか。

    救済手続の対象となる「人権侵害」については,「特定の人の人権を侵害する違法な行為」,すなわち,憲法の人権規定に抵触する公権力による人権侵害のほか,私人間においては,民法,刑法その他の人権にかかわる法令の規定に照らして違法とされる行為がこれに当たるものとされています。


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    「基本方針」では,「人権侵害」の定義について特に触れていませんが,これまでの議論の前提として,救済手続の対象となる「人権侵害」については,「特定の者の人権を侵害する違法な行為」とされています。

    すなわち,憲法の人権規定に抵触する公権力による人権侵害のほか,私人間においては,民法,刑法その他の人権にかかわる法令の規定に照らして違法とされる行為がこれに当たるものです。

    人権擁護推進審議会の答申においても,新たな人権救済制度は,司法的救済を補完するものとして位置付けられていることから,救済の対象は司法手続においても違法と評価される行為であることが前提となっています。

    したがって,「人権侵害」の定義が曖昧ということはありません。

    もっとも,ある行為が「人権侵害」に当たるかどうかは,個別具体的な事案での判断になりますので,その限界事例を含めて一般的に説明することは性質上難しいものです。

    しかし,新たな人権救済制度では,人権委員会が,人権に関する法令の規定や判例,学説を踏まえて,合議体で判断する仕組みとすることにより,判断の客観性を確保し,恣意的な判断を排除することができる制度とする予定です。

    なお,条約について,憲法第98条第2項は,「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。」と定めていますので,国内的効力が認められる条約の規定する人権が違法に侵害された場合にも,国内法令の場合と同様に,人権委員会の救済手続の対象となります。


    Q11-2 「人権侵害」について,「司法手続においても違法と評価される行為」と説明されていますが,どういう意味ですか。

    人権委員会による「人権侵害」の判断基準が,裁判所と同様に,法令に基づいて行われることを説明したもので,何らかの司法手続が必要になるということではありません。


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    「法案の概要」第2項では,人権委員会による調査の対象となる「人権侵害」について,「司法手続においても違法と評価される行為」と説明しています。

    ある行為が人権侵害に当たるかどうかの判断について,人権委員会は,法令に照らして違法な行為に当たるかどうかという基準で行います。

    そのような判断基準は,裁判所と同じであることから,上記のように表現したものにすぎません。

    人権委員会の救済を求めるために,何らかの司法手続が必要になるという意味ではありませんし,裁判で勝訴判決を得られる程度の証拠がなければ人権委員会に申告ができないという意味でもありません。


    問題点7

    司法でも捜査機関でもない、不可解な組織です。

    問題点6で指摘した、行政による司法介入との批判を避ける為、Q15では、人権委員は裁判官(司法機関)でも警察官(捜査機関)でもないとしています。

    しかし、その一方で「説示」「勧告」をするとしています。

    行政機関から「説示」「勧告」があれば、国民には十分な萎縮効果があります。

    またそれが見込めるからこそ、「説示」「勧告」を前提としているはずです。

    任意とは言え、独自に調査権を持ち、当事者から事情を聞き、事実関係に関する証拠資料を収集し(Q12-3)、国民に対して「説示」「勧告」が出来る組織でありながら、司法でも捜査機関でもない不可解な組織になっています。

    また、公権力の人権侵害に対処する為と言いながら、いかなる強権も持たないとするのも、実効性の乏しい理論であり、それを補う為に、Q13-2では、関係行政機関に必要な協力要請が可能な規定を設けるとしていますが、これは矛盾です。


    (以下関連、同Q&A Q12-3、Q13、Q13-2、Q14)


    Q12-3 人権委員会は,人権侵害の申出をした人の主張だけ聞いて人権侵害か否かの判断を行うのではないのですか。

    人権委員会は,公正かつ中立な機関であり,人権侵害の申出をした人の主張だけを聞いて,人権侵害か否かの判断を行うものではありません。


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    人権委員会は,公正かつ中立な判断をする機関です。

    人権侵害の事実があったか否かを判断するについても,それぞれの事案に応じて,当事者や関係者から事情を聴いたり,事実関係に関する証拠資料を収集した上で,どのような事実があったと認められるかを検討し,さらに,それが法的観点から,人権侵害に当たるか否かの判断を行うことになります。

    人権委員会が,人権侵害の申出をした人の主張だけに基づいて一方的に人権侵害だという判断をすることはありません。


    Q13 新たな人権救済機関は、令状なしに、家宅捜索をしたり、証拠を差し押さえたりするのですか。また、調査の不協力には、罰則があるのですか。

    いずれについても,そのようなことはありません。


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    新たな人権救済機関が行う調査は相手方の同意を得て行う任意の調査に限られ(「基本方針」第7項),令状なしの家宅捜索や差押えをするということはありません。

    また,「基本方針」第7項は,調査拒否に対する制裁に関する規定は置かないことを明記しています。


    Q13-2 新たな人権救済機関が行う調査は,任意の調査に限られるとされていますが,公務員による人権侵害事案では,行政 が調査に協力しなくなってしまうのではありませんか。

    そのようなことはありません。

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    ご指摘のとおり,新たな人権救済機関が行う調査は,任意の調査に限られます。しかし,人権委員会が関係行政機関に対して,必要な協力を求めることができる旨の規定が置かれる予定です。

    同規定により,調査において,人権委員会が関係行政機関に必要な協力を求めた場合には,関係行政機関は,正当な理由がある場合を除き,調査に協力する必要があります。


    Q14 救済措置として、調停・仲裁を広く利用可能なものとするというのは、どういうことなのですか。

    平成14年に国会提出された政府の法案では,調停・仲裁は,特定の事案のみで利用できることとされていましたが,「基本方針」では,これをあらゆる人権侵害事案について利用可能なものとする方向性が示されました。


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    調停・仲裁は,平成14年に国会提出された政府の法案では,特定の事案のみに適用される「特別救済措置」として位置付けられていましたが,「基本方針」第8項では,これをあらゆる人権侵害事案について利用可能なものとする方向性が示されました。

    調停・仲裁は,当事者間の話合いや双方納得の上で紛争を解決する方法ですので,事案を問わず,広く利用可能とした方が実効的な救済につながるものと考えられるからです。

    なお,人権委員会の権限が強くなりすぎるのではないかというご指摘があることを考慮し,「基本方針」第8項は,人権委員会による訴訟参加,差止請求訴訟の提起については導入しないものとする方向性も示しています。


  • 結論
  • 新しい人権侵害救済機関は、総じてヌエ的なものになっています。

    Q&Aで見る限り、新組織は人権侵害被害者の総括的窓口となり、種々の相談を受け、刑法・民放に抵触する恐れがある場合は関連機関に連絡し、それ以外の事案は仲裁 調停をする機関であり、同時に啓蒙活動の機関と位置づけられています。

    そうであるならば、現行の人権擁護局及びその拡充で足りるものであり、新組織を設ける理由はまったくありません。

    そこで新組織を作る積極的理由を明示する為に、種々の工夫をこらしていますが、その為に曖昧で不完全な制度設計となっています。

    現在の制度設計では、弊害が多く、人権侵害の救済すらおぼつかないです。

    しかし不完全な設計であっても一度出来てしまった組織は、組織の存続自体が自己目的化します。

    もしこの法案が成立すれば、組織維持の為にその権限はより拡大の方向に向かうでしょう。

    ことが国民の人権と言論の自由に関わる民主主義の根幹を脅かしかねない問題であるからには、より慎重な制度設計が求められます。


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